急降下

備忘録

全身麻酔で意識を失う直前に幸村さまが降臨なさった話

日にちが経つ前に記事を書いておこうと思う。

はじめに言っておきたいのは私はいわゆる大病院が嫌いであるということと、手術は無事終了したということと、現在も声は出ず、リハビリ中であるということだ。

突然だが、私は2月4日に手術をした。予定では2時間で終わる手術だったらしいが、予想外のもの(?)に阻まれて一度行った動作を最初からやり直し、最終的には5時間かかったらしい。体感時間としてはふと深く考え事をしていた、くらいの感じであったが、出てきた時には酸素マスクを被せられて、身体中からあらゆる管が伸びていて、意識は朦朧としていたそうだ。これは家族の話と、母が記録していてくれた映像から知った。管が伸びている痛い感覚だけは自覚していたが、自分ではしっかり目を開いて意識はハッキリ、声は出ないながらもしっかりと受け答えしているつもりであった。しかしそれは違ったらしい。

手術後、確かに寝ている感覚は全くなく、代わりにどこからともなく、みんな大好きイセダイこと伊勢大貴くんが歌うニンニンジャーのED曲

『なんじゃモンじゃ!ニンジャ祭り!』(↓参照)

youtu.be

の「君はいつもいっぱいいっぱい仲間がついて候」の部分がぐるぐる流れ、あまりの愉快さと自身の身体に反する頭の中の元気の良さに、爆笑してしまった。

声が出ないため、無理やり空気がヒューヒュー抜けてつらいうえに、笑うと傷が開くのか傷に触るのかもうとにかく痛いので、それはもう悲惨であったが、とても明るい気持ちになった。歌自体にもとても励まされたし、暗い病室の中で暗い気持ちになっていたところに、イセダイの数々の面白エピソードやら動き(?)やらが関連づいて思い出されて、もうとにかく元気が出たので、勝手に個人的にイセダイには本当に感謝しています。暗い病室で明るい気持ちにさせてくれてありがとうございました。 

話が少し逸れてしまったが、そんなわけで、私は、頭の中に無限ループで再生される『なんじゃモンじゃ!ニンジャ祭り!』をBGMに四六時中考えを巡らせているかのような錯覚に陥っていた。その間頭の中だけは異常なくらい冴え渡っているような気がして、*1自分の感覚ではその冴え渡る頭で常に思考し、一睡もしていないかのような状態であったので、疲労は蓄積するばかりであったし、寝るということの難しさを思い知った。

病気のことを簡単に説明すると、私の喉には大きい腫瘍があって、それは医者によると、エコー検査で見た感じでは良性のものであるとは思うが、摘出して検査してみるまで癌でないとは言えない、というものであった。最初にこの話を聞かされた時は癌って身近に起こるものなんだな、とひどく冷静な気持ちになったのを覚えている。こんなナチュラルな感じで世間話をするようにスルッと癌という単語が出てくるもんなんだな。自分の中で、驚きというより冷静さが勝った。ちなみにこの病気とは付き合い始めてかれこれ4、5年になる。その間に違う病気が併発した所為で手術ができず、こんな年齢のこんな時期に手術をする破目になってしまった。

私は病気のせいで全く動けないというようなタイプの患者ではなかったため、入院している病室から、医師看護師同伴のもと、歩いて手術室まで向かわされた。自らベッド脇にセッティングされた階段を登り、かなりの高さに設定されている手術用の幅の狭いベットに寝転ばされたのだが、この階段を上るという行為が、単純に死を連想させた。

この光景を見て最初に浮かんだのは、絞首刑だった。このまま階段を上って爼上の魚になるのか、と冷静に分析している自分に少し笑ってしまった。生かすも殺すも医者次第。その上その医者は腕はいいがそれだけであとは全てにおいて最悪な(モルモットみたいな扱いされた)およそ人間とは思えないようなモノであったため、なぜ私はそのような最悪の医者に命を任せるしかないのだろうとも思って、また少し笑ったら、看護師に「何かいいことでもありましたか?」とにこやかに聞かれた。これから生きるか死ぬかを自分の意識の外側に任せるしかない人間に対して「いいことがありましたか」の質問はひどく滑稽で、また少し笑ってしまった。

そのまま今まで寝たことのない幅の手術用のベッド*2ごとガラガラと押されて、そのあまりの振動に乗り物酔いを軽く引き起こし、軽く吐き*3ながら一番広い*4手術室へ運ばれていった。手術室にメガネは持ち込めなかったので*5ぼんやりとした景色しか見えなかったが、よく医療ドラマで見る、ライトが何個も付いて大きなひとつの照明になっている手術用の照明が、ふたつ天井にかかっていたのを、なんとなく見た覚えがある。

絵に描いたような知的美女で若々しい綺麗な麻酔科医に「ドラマとかで見たことあるのと一緒?」と聞かれた。私には見えないのでよくわからないと答えたら、ふふっと色気のある表情で笑われ「そっか」と返された。なんだその色気。可愛いなあ。どうでもいいが正直タイプだった。それから、見えないもんは本当に見えないのだからよくわからないのは許してほしいとも思った。そのままその美女麻酔科医に「このまま眠くなる薬いれますね〜」と軽く言われたので、大人しくまぶたを閉じた瞬間。

 

ふと、本当にふと、頭の中に神永圭佑くん演じる幸村精市くんの歌声が流れてきた

 

ミュージカル テニスの王子様』にて歌われる『君を信じてる』という楽曲をご存知だろうか。知ってる人も知らない人も、とりあえず歌詞を見てほしい。

www.kget.jp

そしてその歌詞の2段落目を見て、その部分に注目してほしい。

私は手術用のベッドの上で、美女麻酔科医に左腕を取られながら、痛みとともに麻酔で意識が薄れていく中、まさに、思い出やら愛しいひとやらの顔が浮かんでは消えてゆくという実体験をしてしまったのである。全身麻酔が効いてくると、不思議なことに思い出が現れては消え、流れ行くさまが私には見えてしまったのだ。そしてその映像を盛り上げるかのようにじゃんじゃか流れるバックグラウンドミュージックに、神永圭佑くん演じる幸村精市くんが歌う『君を信じてる』が私の頭の中で大抜擢されていた。生きるか死ぬかの覚悟を決めた後、ふと頭の中に流れてくるものが、神永圭佑くん演じる幸村精市くんの歌う『君を信じてる』のフレーズ。直前まで得体の知れない恐怖に襲われ、平静を保つためにいろいろ聴いていたのだが、そのラインナップには含まれていなかった。本当になぜあのタイミングで流れてきたのだろう。舞台の演出を思い返しながら、不思議に思った。*6

そんなわけで、私は一番広い手術室でのなかなか特殊な手術であったため、見学に来ていた医者も多く大人がわらわらしている中、自分の頭の中に流れる選曲の的確さと、現状のあまりの面白さと興味深さに、必死に吹き出すまいと耐え忍ぶことになってしまった。

その結果知らないうちに力が入っていたらしく、緊張からか手先足先がキンキンに冷えてしまったらしい私を温めようと、看護師に温風を入れられたり湯たんぽを置かれたりされていたそうだ。その結果意識が戻った瞬間、あまりの熱さとエレベーター*7のあまりの振動に気持ち悪さがMAXになってしまい、またもよくわからない液体を口からぶちまけてしまったのであった。

 

 

 

 

 

*1:母に確認したら寝ている時間の方が長かったと言われた

*2:さながら待合室の長椅子であった、硬いし。

*3:絶飲食であったため吐けるものがなく、なんかよくわからない液体を口からぶちまけた

*4:と看護師に言われた

*5:私は視力が極端に低く、当然コンタクトもだめであったため、ほとんどよくわからなかった

*6:歴代の幸村くんの中でも神永圭佑くんの歌声が流れてきたのは、手術日の2週間前くらいに見たのがドリライ2013であったことに起因しているのではないかと思う。

*7:しばらくICUに入っていて、そのエレベーターは漸く出られて個室移動していたときのものらしい